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U-Turner's Journal @Toyama

富山にUターンしてきました。

君は自分と会社を一体化して考えることができるか

10年遅れな感じもしますが、小説「ハゲタカ」(真山仁)を読んでいます。

実在の企業をモチーフにしたバイアウト劇を扱った経済小説で、10年ほど前にドラマ化や映画化され、一世を風靡しました。

タイトルの「ハゲタカ」とは、日本の不良債権処理に乗じて瀕死の企業を買収し、短期的な利益を上げる外資系ファンドを、死肉をあさる禿鷹に見立てて揶揄した言葉です。

 

 小説の感想は別の機会に書くとして、上巻の最後の方、メガバンクのエリート行員・芝野と上司・飯島のやり取りがとても印象に残りました。

「お前は、将来を嘱望されているエリートやろ。わしは途中から裏道を歩いてしもたけど、迫田なんかより、お前はずっと優秀な経営陣になれると思う。けど、お前の怖いところは、会社への帰属意識や愛行精神が希薄なところや」

(中略)

「三葉が法に触れるような大不正をせんかぎり、将来がないという状況に陥ったとしよう。その時、お前は、率先してその罪を犯して銀行を救えるか?」

 この言葉、「不法行為をするなんてダーティな会社だ!これだから銀行は・・・」というだけの話ではないと思います。

 背景にあるのは会社の行く末と自分の将来を、一心同体と考えられるか?という踏絵です。

 この小説が発刊されたのは2004年ですが、この時のこの言葉と、2013年時点でのこの言葉は、多くの人にとって違う風に反応が返ってくると思います。

 

会社の行く末と自分の将来を一体化させるためには、「会社じゃ自分を絶対に守ってくれる、会社にしがみつくことで自分は安定して生きていける」という前提が必要です。確かに一昔前(2004年でもちょっと遅すぎるぐらいですが)なら、そういう前提を信じることはできたと思います。ただ、今、これと同じ問いを受けて、確信犯的に罪を犯すことができる人は大分少なくなっているんじゃないでしょうか。

 

もはやいろんな人に言い尽くされてる感がありますが、今は、会社に全てを捧げてもリターンは薄いし、会社もいざとなったときには自分を守ってくれない。悪い意味で崩れつつある年功序列のルールの下で、若手サラリーマンは押さえ込まれている*1

人口ボーナスの中、イケイケドンドンで市場が成長して、部下も給料もどんどん増えた時代と、人口オーナスの中で会社の業績が伸び悩む中、給料も増えず、管理職にもなれない現代のサラリーマンが同じリスクを負えるはずがない。なぜならリターンが全然違うから。

違法行為を犯せるか?という踏絵は特殊としても、「自分と会社を一体化して考えることができた、ある意味幸せな世代」(僕のイメージではバブル世代より上の世代)と「そうでない世代」(直感的には団塊ジュニア以下の世代)では会社のとらえ方は大きく違うと思います。旧態依然としたやり方を当然と思う幹部と、そこまで会社にコミットできない担当者たち、という2つのレイヤーには断絶があり、それは日に日に大きくなっている。

 

例えば、卑近な例だと「上司の酒は断らない」とかもある意味で世代の断絶があるなと思います。たとえ上司に気に入られたとしたって自分が偉くなれるわけとは限らないんだから、なんでそこまで無理して酒飲むのさ、となる。会社にしがみつく若者、なんて言葉も一時はやりましたけど、フルコミットしてもハイリターンが期待できないのなら、損をしないように守りに入るのは一面、合理的と思います。

 

僕は今までは前者の一体化する社風の組織で働いていました。その中で感じていたのは、組織としては自分と会社を一体化して働くことを求めているけど、職員側には必ずしもそういうマインドが植わっていない、というギャップです。

このギャップは、ディスコミュニケーションを生み、組織の活動を阻害する。これは特定の会社だけの話ではなくて、日本の企業の大部分に当てはまる問題だと思います。少なくとも、「部下は上司の命令するままに動くもの」「会社と社員は一心同体」という自分の経験を前提にマネジメントをしていると痛い目を見ることになるのは間違いないと思います。

 

ちなみに、小説に戻ると、この問いをぶつけられた芝野は夢だったターンアラウンドマネージャーを目指して銀行を退職します。彼も、自分と会社を一体化させるリスクを負えなかったんでしょう。

 

新装版 ハゲタカ(上) (講談社文庫)

新装版 ハゲタカ(上) (講談社文庫)

 
新装版 ハゲタカ(下) (講談社文庫)

新装版 ハゲタカ(下) (講談社文庫)

 

 

*1:総人件費を下げるために若手から中堅は昇給、昇格が抑えられ、採用も抑制されて部下も増えない、という話は若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)なんかでも有名です。