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U-Turner's Journal @Toyama

富山にUターンしてきました。

慢性期病院の2割は2025年まで生き残れない?

たまには本業である病院経営の話を書きます。

 

病院業界は今、大転換期にあります。

団塊の世代が全員後期高齢者(75歳以上)になる2025年に向け、厚生労働省は病院の再編をかけようとしています。

 

この病院の再編、業界ではかなり話題になっているものの、世の中ではまだあまり話題になっていないような気がします。

ですが、実際に医療を受けるのは地域の方です。今まで通っていた病院がある日突然無くなったり、今までと同じ治療を受けられなくなる、ということも、この再編によって発生するかもしれません。

今だ「業界の内輪の話」という域を出ていない病院再編ですが、日常の生活にも関わってくるはずです。

 

そもそも「病院」とは何か?

多くの人は、病気になった時にお医者さんに診てもらえるところを「病院」だと考えていると思います。そこは、救急車で運ばれて手術を受けたり、リハビリをしたりするところという印象があるのではないでしょうか。

 

ところが、ちょっと具合が悪いな、と思ったときに駆け込むところと、事故にあった時に救急車で運ばれるところは、まったく別物なのです。

僕もこの業界で働き始めて知ったのですが、「病院」とは1つでないのです。

 

世の中一般に言われる「病院」は、大きく分けて「診療所」と「病院」にわけられます。
そして、「病院」は機能によってさらに「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4種類に分類されます。

「診療所」とは、みなさんがちょっと具合悪いなというときにまず行くところです。ご近所にあるタナカ内科医院とか鈴木クリニックとか、そういうところです。

病院と診療所は医療法で明確に分けられています。その基準は極めて明快で、「入院診療用のベッド」が20床以上かどうかです。20床未満は「診療所」、20床以上が「病院」です。とはいえ、診療所のほとんどは入院診療をしない無床診療所なので、直感的には「入院できるところ=病院」「入院できないところ=診療所」という風に考えてもらえばいいと思います。

 

病院は機能によって4種類に区分される

法律上の「病院」の定義は、20床以上の入院ベッドの許可を受けたところ、となるのですが、かといって「病院」ならばどこも同じというわけではありません。

一般的なイメージとすれば、病院だったらどこでも救急車を受け入れてくれて、手術もできて、リハビリもできて、・・・みたいな感じがあるかもしれません。

ところが、実際には「なんでもできる病院」はありません

というのも、一口に入院ベッド=病床といっても、病院ごとにその機能が全く異なるからです。

例えば、救急救命センターがあって、24時間医師が張り付いているような病床は「高度急性期病床」といいます。短期間に超濃密な医療を提供できるよう、治療室内には専用の機器が備え付けられていて、看護師も他の病床に比べて倍以上と手厚く配置されています。同じような、診療密度の高い医療を提供する高規格な病床として、ICUやHCUなどがあります。

※正確にいえば入院料と病床機能は今のところ一対一対応してないので、HCUでも高度急性期でない、ということもあるかもしれませんが、最終的には診療報酬と結びつくと思います。

 

高度急性期病床ほど高い診療密度ではないものの、不安定な病態からある程度安定した状態になるまでの治療を提供する病床は「急性期病床」といいます。手術をしたり抗がん剤治療をしたりするのはここですね。世の中の「病院」のイメージに一番近いところだと思います。

「高度急性期」「急性期」の後に続くのが「回復期」「慢性期」です。ここは一般の病院とは少しイメージが違ってくるかもしれません。

「回復期」は、急性期治療が終わって病態が安定した患者に対し、リハビリを提供したりして、家に帰るための調整や訓練をする病床です。

「慢性期」は、長期にわたって療養が必要な患者が入院するための病床です。


病床はそれぞれ役割が違うので、例えば慢性期病床では手術はしませんし、高度急性期病床に長期入院することもできません。例えば脳梗塞で高度急性期病床を有する病院に運び込まれても、在宅復帰のためのリハビリテーションはそこではできないので、回復期病床のある病院に転院しなければいけません。

病院によっては急性期と回復期や回復期と慢性期の組み合わせなど、機能の違う病床を組み合わせて保有しているところもあります(ケアミックス病院)。こういう病院の場合は院内で病棟を変えることで患者の病態に合わせた治療を受けることになります。

 

国が進める病床機能の再編

ちょっと前置きが長くなりましたが、2025年に向けて厚生労働省が行おうとしているのは、この機能の再編・再配分です。

 

今、世の中の病院の大部分は、「自院の病床機能は『急性期』だ」「うちは『慢性期』だ」と主張しています。自己申告なので、どう主張してもそれはいいのですが、世の中の病院がみんな手術したがったり、長期療養ばかりしたがったりしていると、リハビリする病床がなくなってしまい、せっかく病気が治っても家に帰れない、ということになってしまう。

 

今進められようとしているのは、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの区分それぞれについて、都道府県が政策的に病床機能の「必要量」を決め、この目標数量に向かって病院の診療機能を誘導・最適化させよう、というものです。

 

都道府県が定める「必要量」からあふれた病床については、「あなたはもう慢性期辞めて回復期なりなさい」という風に他の診療機能への転換を促すか、さもなくば許可病床を取り上げる、ということになります。

 

ドラスティックな変化が求められる慢性期病床

先日、病床機能の「必要量」の計算方法を決める、「地域医療構想の策定ガイドライン等に関する検討会」で、4つの区分のうち、慢性期の算定方法が示されました。

残る3つの区分については、算定方法そのものは示されているものの、基準となる数値がまだ開示されていません。

 

今回公表された慢性期病床の必要数の方法は、「慢性期病床には、在宅医療でも対応可能な患者が入院している」との前提に立ち、全国で最も慢性期医療の実需が低い県の受療率と全国中位にある県の受療率を基準にして必要量を算定しようとするものです。*1

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「慢性期医療の受療率」は正確な統計がないのですが、慢性期医療にもっとも近い指標として「療養病床の受療率」があります。これを代替指標として、2025年の慢性期病床の必要量を計算してみます。

 

療養病床には、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟などの回復期として利用されているものも含まれているため、療養病床=慢性期病床というわけではありませんが、そういう病床はそんなに多くないので、イコールと見ても大宗に影響はないと考えています。

 

下の表は、各県の療養病床受療率を、全国に当てはめた場合の想定患者数です。単に療養病床の数と稼働率だけを比較すると、人口の多寡や高齢化率に影響を受けるため、これを補正するために、年齢別の受療率を全国の人口に当てはめて補正しました。

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これを見ると、受療率最小は長野県、最大は高知県、中位は福井県であることがわかります。厚労省が採用しようとしている慢性期病床の必要量の推計方法は、受療率最小の都道府県(長野県)をボトムラインとして、最大(高知県)を中位(福井県)並みに圧縮し、それにあわせて他の都道府県の受療率も並行してスライドダウンさせる、というものです。

 

表のスライドダウン率はあくまで公表資料をもとに私が計算方法を想定したもので、現状の受療率にスライドダウン率乗じて必要量を圧縮するという方法を仮定しています。例えばですが、現状の受療率100、想定されるスライドダウン率70%とすると、10万人当たりの必要量は70人、と計算しました。

実際にどうなるかはわかりませんが、以下、この考え方が正しいという前提で議論したいと思います。

 

この場合、高知県の慢性期の受療率は現状の1/3まで圧縮されることになります。中位の福井県でも目標となる受療率は現状より3割減と、どの都道府県もかなり厳しい目標設定が求められそうです。

 

次に、地域医療構想の目標となる2025年の高齢化の状況を踏まえた場合に、どうなるかを計算しました。下表の「必要量」は、現状の受療率に2025年の人口構造を当てはめた場合の想定患者数に対して、先ほど計算したスライドダウン率を乗じたものです。この数値が、慢性期医療の「必要量」となります。

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実に衝撃的な結果ですが、ほとんどの都道府県において、2025年の慢性期病床の必要量は現状より1割以上ダウンする計算になります。一部の県では必要量は増えるものの、全国の合計では慢性期病床の必要量は現状の8割ということなります。

 


実際のガイドラインがどうなるか、また、各都道府県がどういう指導をするか未知な部分はありますが、検討会の資料をそのまま信じるならば、全国の慢性期病院のうち2割は2025年までに生き残れない可能性がある、ということになります。もちろん行政が1つの病院を狙い撃ちしてまるまる病床を召上げるというのはちょっと考えづらいですが、スタッフ不足で苦労している病院だとこれを機会に・・・ということは十分考えられます。

 

野心的な一部の慢性期病院は、半分急性期的な機能を持つ回復期病床である地域包括ケア病棟にシフトをしています。ですが、例えば慢性期病床で一番看護配置が緩い療養病床入院基本料2は看護配置が25対1、患者25人に対して看護師が1人配置されるようになっています。これが地域包括ケア病棟入院料の場合、看護配置は13対1と一気に看護師を倍増させなければいけません。

こう考えると、すべての慢性期病院が回復期へシフトするというのは非現実的と言わざるを得ません。おそらく、少なくない数の慢性期病院が出口戦略を見つけられず、許可病床を都道府県に召上げられてしまうのではないでしょうか。

 

在宅復帰を推進するという国の政策は大いに結構ですが、例えば高知県であれば長期療養の病床が6割減となってしまえば地域の影響もかなりのものがあると思います。

以前、認知症の親が電車にはねられてJRから損害賠償を請求された話をブログに書きましたが、在宅医療にも通じる部分があって、常時ケアを必要とする人が家庭にいるというのはとてつもない負担で、それを「家庭の問題」として切り捨ててしまうのはなかなか難しいところがある。


この病床の再編は単にベッドを減らす・減らさないという以上の問題になるのではないでしょうか。

*1:受療率とは、1年のうちの特定のある1日について、人口10万人当たりその病気で何人が治療を受けたかの比率を示す数値。3年に1度厚生労働省が統計を取っている(患者調査)