自治体病院が破綻する日

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旭川市が運営する旭川病院で、赤字を理由に職員給与の削減が行われるという報道があった。一般に、自治体病院は一般会計からの繰入れで赤字が補填されるため、職員給与に手を付けてまで収支改善しようとするケースはあまり聞いたことがない。

北海道旭川市は11日、市立旭川病院の医師や看護師らの給与を2年間、削減する方針を決め、関連議案を定例市議会に提出した。同病院は深刻な赤字が続き、経営改善が喫緊の課題だ。給与削減で年約1億3千万円の節減を見込む。

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市立旭川病院の損益状況

総務省が取りまとめている病院事業決算状況から旭川病院の経営状況を見ると、平成29年度は医療の提供による売上である医業収益が97億円に対し、医業費用が109億円であり、一般企業でいえば12億円の営業赤字となっている。これは、100円稼ぐのに費用が110円かかっている計算で、確かに大きい問題。f:id:u-turner:20190414005456p:plain

http://www.soumu.go.jp/main_content/000599220.pdf

旭川市内の病院市場環境 

病床機能報告をみると、旭川市を含む上川中部医療圏は高度急性期病床の比率が高く、急性期病院がタブついている地域となっている。

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 旭川市内には400~500床規模の急性期病院が旭川病院を含めて4病院ある。公開情報から病床稼働率を計算すると、旭川医科大病院や旭川赤十字病院が稼働率90%前後なのに対し、旭川病院は70%を下回る水準。供給過多の中で、市場シェアを獲得できていない状況にある。

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給与削減の妥当性は

先のP/Lに戻ると、旭川病院のコスト構造を見ると人件費率が売上対比で53.8%となっている。一般に病院の適正な人件費率の目安は50%と言われており、それと比較すると若干高いものの、コスト高体質になりがちな自治体病院としては必ずしも高い数値ではない。

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今回の給与削減による支出の抑制効果は1.3億円ということなので、人件費率の引き下げ効果は1%程度。確かに小さい額ではないものの、これによって12億円の赤字が抜本的に改善できるわけもない。

 

また、医師・看護師・薬剤師等の医療専門職は技能がポータブルで雇用の流動性が高いため、給与水準には一定程度の相場観がある。今回、最大で基本給20%程度の削減ということで、かなり踏み込んだ内容になっているが、一時の収支改善のために相場から外れた給与をセットしてしまうと大量離職の引き金にもなりかねない。旭川病院は現在7:1看護*1で、かなりの数の看護師を確保しておかないといけない状況なので、仮に離職者が多発して7:1を維持できなくなると単価が下がって収支がさらに悪化するリスクもある。

 

病院経営の王道は一にも二にも稼働率をどう高めるか。旭川病院は許可病床数の1/3が稼働していない状況なので、薄く広く人件費に手を付けて不稼働病床を増やすリスクを負うよりも、回復期病棟への転換も含めて既存の病棟を埋めることにエネルギーを注ぐか、採用抑制や早期退職制度等を併用しながら適正規模まで病床数をダウンサイジングしていく方が適当だったのではないかと思う。 

 

そう考えると、今回の給与引き下げは、リスクが大きい割に大したリターンが見込めないので、あまりいいアプローチではないと思う。給与カットからの大量離職⇒病棟運営困難⇒収入激減⇒補填不可能なほどの赤字⇒経営破綻という最悪のストーリーも視野に入りかねない。

 

自治体病院が破綻する日

旭川市は2019年度の予算で自治体の「貯金」にあたる「財政調整基金」から13億円を財源不足の穴埋めに取り崩す予定という。2018年度の財政調整基金の残高が約30億円のはずなので、このペースではあと3年で基金が底をつくことになる。母体である旭川市の財政がおぼつかなくては市立病院の支援もできない、というのが背景にあるのだろう。

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自治体病院がこれまで「公益性」を錦の御旗に放漫経営をできていたのは、最後に赤字を補填してくれる自治体があったから。ところが、昨今の自治体財政の状況は、たとえ「公益性」があったとしても無限の赤字補填を許容できなくなってきているということだろう。

 

「自治体病院は絶対につぶれない」という神話はいつまで守られるか。自治体が自治体病院をこれまでどおり維持できなくなったとき、自治体病院がどうあるべきか。「破綻の日はいつかやってくる」を前提に考える時期がやってきている。 

*1:看護師1人あたり7人の患者を看る体制。入院基本料では最も手厚い配置で最も入院単価が高い。