「学校の働き方改革」とは教育の地域への開放

ご縁で教育系の非営利法人の活動に参画させてもらう機会があり、そこから派生して「学校の働き方改革」というものがあることを知った。

 

この学校の働き方改革というもの、医療業界の「医師の働き方改革」ととても文脈が似ている。具体的には、

  1. 社会から全人格的な投入を期待される(休日も仕事にコミットする)
  2. 正規の労働時間以外の活動があるのが当然とされる文化
  3. 属人的・職人的な仕事の仕方が主流で、組織分業が進んでいない

などである。

 

学校の働き方改革が進まない理由

一方、医師の働き方改革は医療機関により多少の温度差はあるものの、業界全体では改善が必要というのがコンセンサスになっているし、具体的な取り組みも進んでいるという点で学校のそれに比べると一歩も二歩も先をいっている、とも感じた。

 背景には

  1. 医療は根本的には収益事業なので、医師不足の視点からも生産性を高めるために業務の効率化を経営サイドが推奨
  2. 看護師をはじめとした医師以外の医療専門職の地位向上・活躍の場の拡大といった文脈でタスクシフティングが進んでいる
  3. 診療報酬制度でタスクシフティングに対してインセンティブがつけられている

といった構造的な要因があると思う。

 

逆に、学校の働き方改革にはそういう効率化のインセンティブがない。教員の大多数は公務員で、教育は公共サービスだから組織的に生産性を向上させようという動機づけが薄い。また、教員免許は取得のハードルが低く、総量が規制されていないので、これまで教員採用試験はずっと高倍率で「やりたい奴はいくらでもいる」という状況だった。医師の働き方改革よりも、学校の働き方改革の方がよほど構造的な難易度が高いと思う。

 

「学校以外が担うべき業務」を誰がやるのか

学校の働き方改革は、医師のそれから類推すると以下のような方向性になると思う。

  1. 教員以外の専門職、補助者の配置によるタスクシフティング
  2. 複数者配置によるシフト制・分業の推進
  3. 学校が「やらないこと」を決める 等

 

問題は、ほぼ行政サービスの公教育で、1や2のような人件費の増嵩必死の高コストな対策が実現できるのかということ。やらなくてはいけないことは半ば自明だが、それを実施できる余力が今の国や自治体にあるのか。処方箋はあるけど薬局がなくて薬を受け取れない、みたいな話になってしまうのではないか。首長の超絶リーダーシップでもない限り、せいぜい学校事務職一人増員(しかも非常勤)がいいところじゃないかと思ってしまう。

 

そうなると、学校の働き方改革の本丸は、今まで学校に担ってもらっていた社会的な役割を「やらない」と決断する3が中心になるだろう。中教審の答申でも、(現在は学校が行っているものの)「基本的に学校以外が担うべき業務」などが例示されており、学校の業務の切り出しが進められていくことになるものと思われる。

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地域や企業も教育への参画が必要

問題は、切り出されたその業務を誰がやるかということ。登下校の見守りや部活等の課外活動の指導等を「学校がやるべき業務でない」というのは簡単だが、学校が業務を単にリリースするだけでは教育環境が希薄化するだけだろう。

 

改めて考えなければいけないのは、今は「学校=サービス業」「保護者=顧客」みたいな構図になりがちだが、本来は、学校も親も、子供に最高の教育環境を提供するためのサービスの担い手でなくてはならないということ。

 

もっと言えば、人口減少社会では子供は日本全体の財産なので、地域住民や企業も教育に参画しなければいけない。地域でちゃんと子供が育ち、大人になって社会を支える側に回ってもらわないと、企業は従業員を確保できないし、地域住民にとっても社会保障制度が維持できなって最後に困るのは自分たちだ。

 

これまで教育に関する様々な事柄を学校に担ってもらっていたが、これからは学校の担っていたものを、家庭や地域住民、企業に再配分していくことになる。学校という箱のなかで完結させていた教育を、地域全体に開かれたものにしていく*1

 

これまでは「学校での教育がよくない」とクレームを入れれば、あとは学校の問題にできたが、これからは「学校教育をよくするために、私に何か手伝わせてください」と言わなきゃいけない時代になっていくだろう。

*1:ただ、核家族化、共働き化で家庭や地域住民も余力がないのが現状だと思う。教員の時間外勤務を減らすことだけを考えてもうまくはいかないだろう。「学校の働き方改革」というが、実際には、家庭や地域住民、企業等の地域全体にに教育を担うだけの余力をつくることが必要で、本当に求められているのは「地域の働き方改革」ではないかと思う。