「官僚たちの夏」読んででっかい仕事したくて官僚になったのに「賃上げお願い行脚」というちっこい仕事やらされる人がいたら可哀想だ。
— jo shigeyuki (@joshigeyuki) 2013年10月5日
という城繁幸(@joshigeyuki)さんのコメントを見て少し考えることがあったのでまとめておきます。
これは賃上げ要請のために経産省の幹部級の官僚がお願い巡業するという噂について、揶揄というか、ミスマッチを嘆いたつぶやきだと思います。
ただ、元官僚として中から見た感想では、この「賃上げお願い巡業」が特別なわけではなく、官僚の仕事の大半はこういう”ちっこい”仕事がほとんどではなかったかと思うのです。
つまり、”たまたま”政治的な都合で”ちっこい仕事”を"珍しく"押し付けられたわけではなくて、行政は本来的に”ちっこい仕事”で成り立っているということです。
たとえば法令1つとっても、「ここをこう改正しましょう!」と意思決定するのはそんなに難しくなくても、それを条文に落としていくのはものすごく時間がかかる。過去の改正経緯をしらべて文言の用例をまとめて条文案をつくり、解説資料や関連するデータをつくり、それができたら次は局内の審査を受けて官房の審査をうけて最後は法制局の審査を受けないといけない。途中に何回も関係するほかの役所と調整にいかないといけないし、やっと法制局で了が出ても次は議員に根回しにいかないといけない。
そういうもろもろの面倒くさいプロセス(しかも大部分は条文の書き方とか提出書類の体裁とかの”お作法”の話!)を経て公布されたとしても、振り返ってみると結局最後に世の中に価値を与えているダイナミックな部分(”でっかい仕事”)は、最初の「ここをこう改正しましょう!」という意思決定だけです。意思決定以降、公布までのプロセスはその意思決定を具現化させてオーソライズするためのコストでしかない。
日本は民主主義国家でかつ、法治国家であるので、世の中に影響を及ぼすまでには当然に厳格な手続きによるオーソライズが必要(誰かが思ったことがプロセスなしにそのまま世の中に影響を与えるなんて危険)で、それ自体を否定する気は毛頭ないのですが、それを支えている具体的なプロセスは、世の中で思われている華やかなイメージとは程遠い”ちっこい”作業です*1。
逆に言えば、行政はそういう”ちっこい仕事”が積み重なって、結果的に”でっかい仕事”になっているということです。
話を戻して「賃上げお願い行脚」にしてみても、担当官からすれば「普段は10個ある”ちっこい仕事”が今年は11個になった」という程度だと思います(当然面倒が増えるのは間違いないでしょうけど)。こういう”ちっこい仕事”が志望動機との間でミスマッチを起こしているということはなく、そういう意味では、”ちっこい仕事”が嫌な人は、官僚になった時点でミスマッチが起きているとも言えると思います。
とはいえ、こんな無理筋なお願いをパフォーマンス的にさせられるご担当の皆様には同情を禁じえませんが。。。*2