昨年の夏に話題になった神戸市のアミューズメント型デイ規制がTLで話題になっていた。
そもそもデイサービスとは何かというと、法律上の言葉では「通所介護」といい、デイサービスセンターに要介護者を通わせ、
「入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって厚生労働省令で定めるもの及び機能訓練を行うこと」
「要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう生活機能の維持又は向上を目指し、必要な日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の社会的孤立感の解消及び心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るもの」
と定義づけられている。
介護保険事業所として市町村から指定を受けると、利用者の費用の9割が介護保険から支給されるようになるが、通所介護は開設のハードルが低く、いろんな者がデイサービスの事業所を立ち上げている。
昨年夏、神戸市では、パチンコや麻雀などアミューズメントを介護サービスの中心に据えたデイサービスについて、以下のような規制をする条例を出して話題になった。
・利用者に,射幸心をそそるおそれのある遊技を常時又は主として行わせることその他通常の日常生活を著しく逸脱すると認められる形態で遊技を行わせることを規制
・遊技において疑似通貨(通貨に類する作用をなすものをいう。)を使用させることにより,利用者の射幸心を著しくそそり,又は依存性が著しく強くなるおそれのあるようにすることを規制
・賭博又は風俗営業等を連想させる名称又は内容の広告の規制
確かに、射幸性を高めて依存心植え付け、必要以上にデイに通わせる、というのなら介護保険財政に影響がでないとも限らない。
ただ、神戸市の懸念である過剰介護の問題は、射幸性云々以前のケアマネジメントの問題で、アミューズメント型デイだけを悪者にして介護保険から排除したところで解決しないのではないかとも思う。例えば、一部のサ高住では自社でケアマネジメントして、必要性の有無にかかわらず、入居者に限度額目いっぱいまで自社の介護サービスを使わせているという事例も散見されているところで、当局がケアマネジメントをどこまで監視できるかが(アミューズメント型デイとは関係なく)今問われている。
アミューズメント型デイを不健全、不適切と切って捨てるのは簡単だけど、これから団塊世代の多くが要介護状態になり、デイをはじめとした介護保険サービスを受けるようになったとき、この問題はさらに深刻になるのではないかと思う。
デイサービスの目的の1つには「家族の身体的及び精神的負担の軽減」がある。介護保険は、これまで24時間365日家族が担っていた介護負担を、少子高齢・核家族化が進展する中で、社会全体でこれを支援しましょう、という風に転換する制度で、要介護者を介護事業所に「預かってもらう」ことで家族が仕事に復帰しやすくなったり、休息をとることができるようになる。このため、本人の世話や機能訓練以外にも、家族の休息というのも大事な要素だ。
しかし、「年寄り扱いされるのが恥ずかしくて本人がデイに行くのを拒否する」という話も一方で多い。家族はデイサービスに頼りたいのに、本人のプライドが許さない。確かに、デイサービスというと「みんなで体操しましょう」とか「塗り絵しましょう」「お習字しましょう」といったものが多く、モーレツに働いていた元・企業戦士には縁遠い場合があり、受け入れられないこともあるんだろう。こういう中、アミューズメントで釣ることでデイに行くようになる、というのなら、原則としては事業者の工夫の一つとして尊重していい部分もあるんじゃないかと思う。
神戸市は
とりわけ機能訓練室内にパチンコ、麻雀、カードゲーム等に特化した設備を備え遊技場の様な雰囲気の中で、遊技を機能訓練の常時主体とする通所介護(デイサービス)は、介護保険法に基づく本来の趣旨にそった適正なサービスとは考えられず、アミューズメント型デイサービスの適切な運営を図る必要がある(強調は筆者による)
としているが、アミューズメント以外にも、最近は運動に特化した「機能訓練型デイ」で一日マシンでトレーニングしているところもある。一日中麻雀するのはダメで、一日中筋トレするのはOKなのか?
前回の介護報酬の改定でも運動機能に比重が置かれすぎている機能訓練は「本人の生活に役立ってない」と批判されたが、一見、運動なら”明らかに機能訓練っぽい”が、本当に意味があるのかという議論があるし、アミューズメントもそれが本人の認知症予防や機能訓練につながるんだったら、そこに差をつける合理的な理由はないのではないか。結局のところ、「パチンコはけしからん」「麻雀はけしからん」という感覚的なものでしかないように思える。
長寿命・超高齢社会では一口に「要介護者」と言っても100歳のおばあさんもいれば70歳のおじいさんもいるわけで、介護を受ける側の価値観が多様化したときに、従来的なデイがどこまで通じるのか。
行政が「お行儀のいいもの」だけを認めるというスタンスで介護事業者を選別するようになると、結果的に介護保険制度の原点である「家族介護から社会介護へ」が達成できなくなるのではないか。