みなさま本年もよろしくお願いします。
今年はブログの更新頻度向上、月2件、年24回書くのが目標です。忘れないようにカウントダウンしようと思います。
さて、Yahooニュースにフローレンスの駒崎さんが「2017年にはぶっ壊したい、こどもの貧困を生みだす日本の5つの仕組みとは」というタイトルで問題提起しており、中でも5番目に出てきた「医療的ケア児は普通に学校にいけない」のくだり、新年早々興味深く拝読しておりました。
医療的ケアを必要とする子供は増加傾向
NICU(新生児集中治療室)・PICU(小児集中治療室)の充実などの医療体制の整備に伴い、これまでなら生存できなかった子供の命が助かるようになってきているそうです。その一方で、経管栄養や喀痰吸引(たんの吸引)などの医療的ケアを必要とする子供は着実に増えている。
さて、経管栄養や喀痰吸引などを”医療的”ケアと呼ぶのはなぜでしょうか?これらは「医療行為」とされ、基本的な看護職員のみができる行為とされているからです。
「医療行為」は法律で規制されている
医師法と保健師助産師看護師法という法律があり、ここには以下のように規定されています。
医師法(昭和二十三年七月三十日法律第二百一号)
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
保健師助産師看護師法(昭和二十三年七月三十日法律第二百三号)
第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。第三十一条 看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。(但書以下略)
要は、
・医師以外は医療行為を(業として)してはならない。
・看護師は「診療の補助」の範囲内であれば例外的に医療行為を行ってもいい。
・医師でも看護師でもない者は医療行為は行ってはならない。
という法律上の建付けになっているわけです。
ここでいう「業として」とは、「反復継続する意思をもって不特定の人に対して行う行為」と解釈されています。例えば、家族が喀痰吸引をするのは、対象が家庭内の特定者に限定されるので法律違反にならないことになります。
冒頭の「医療的ケア児は普通に学校にいけない」というのは、医療的ケアは医師・看護師が行わないといけないというルールになっているため、「学校には医療的ケアを適法にできる人員がいないので、家族が代わりにやってくれるのでなければ受け入れられない」という話になっているものと思われます。
この問題に対する解決策として全国医療的ケア児者支援協議会が提案しているのが、健康保険の訪問看護の対象を拡大し、学校で訪問看護を受けられるようにすればいいのではないか、というもの。訪問看護とは、字義通り、看護師が患者宅を訪問して看護を行うもの。学校側に看護師がいないのなら、外から看護師を持ってくればいいのではないか、という発想です。
1日何回のケアが必要なのかにもよりますが、仮に1日2回の訪問が必要となれば、1か月に20日間訪問するとして、訪問1回の診療報酬は約6,000円ですから、単純計算で月24万円。これに諸々の加算や管理料もついてくるので、負担はさらに大きくなります。そうなると、経済的な損得だけを考えると、訪問看護を使わずに自分が子供に張り付いて学校に行く(=親は当然に働けない)か、さもなくば学校に行かせるのを諦めざるを得ない、という状況に陥ってしまう。
もしこれが保険適用となれば患者負担は3割になる上、高額療養費やその他の医療費助成があるので、自己負担はゼロ~数万円まで軽減されます。これなら訪問看護という外部のサービスを活用しても、その間に外で働くことで費用をカバーできる。
ところが、元記事にあるように、現在の訪問看護は、通院できない患者が「居宅」で医療を受けるための特例として位置づけられており、家以外では医療保険適用にならない仕立てとなっている。
現状、厚労省はゼロ回答
この全国医療的ケア児者支援協議会の要望に対する厚労省の見解は以下のようなもの。
居宅における訪問看護と、訪問看護を用いた外出時の支援とは、その目的、実施される内容や、実施にかかる時間・費用等のいずれの面でも、その性格を大きく異にするものである。ご要望のように、訪問看護に関する公的医療保険の給付を外出に対する支援に拡大することについては、公的医療保険の給付の在り方に関わるものであり、大きな財政負担を伴うものであることから、解釈上の課題とすることはできないものである。
まったくのゼロ解答です(下線は筆者)。
確かに、訪問看護も含めた医療保険制度は、中央社会保険医療協議会(公益委員の任命は国会同意人事となっているなど、高い政治性がある)での駆け引きのなかで決まるので、純粋な政府の解釈論として処理するのは政治的にも困難なのだろうと思います。
看護や介護が必要な人も含めた「一億総活躍社会」
元FC岐阜の社長で、ALSという病気で闘病中の恩田聖志さんが以前のブログでこんなことを書いておられましたが、今回の話と通ずるものがあります。
②福祉サービスの適用範囲に経済活動は含まれない
つまり、私が仕事している時間は福祉サービスは使えません。しかし残念ながら、今の自分には仕事する上でアシスタントが不可欠です。つまり自分の報酬より先に、アシスタントの報酬を確保しないと、仕事出来ない構造になっています。なかなかのハードルです。
おとなしく家にいれば、最低限守ってもらえますが、私のように仕事したいというワガママに対しては、制度が追いついてないのです。
しかし、一億総活躍社会を実現するならば、色々考える必要があると思います。障害を持っていても、社会に貢献したいと思う方はいらっしゃるし、仕事をして稼ぐということが自信になると思います。
障害者になって初めて知った福祉サービスの世界の落とし穴⁉️ : 片道切符社長のその後の目的地は?ALSと共に生きる恩田聖敬のブログ(下線は筆者)
現在の医療保険制度や福祉サービス制度は、「病人や障害者は家にずっといるはずだ」「学校に行ったり仕事をしたりするはずがない」という前提で物事が構成されている。
でも現実には、医療技術の進歩や種々のインフラや制度の充実のおかげで、病気や障害を抱えながら社会の中で活動する人は増えてきている。ましてや、これから人口が減っていく中で、「一億総活躍社会」という題目を掲げている以上、こういった人やその家族が社会参加し続けられる国にしていかなければならない。
社会保障制度も、単に弱者救済を目的とするだけでは時代遅れで、多様な生き方や社会参加をサポートできる方向にバージョンアップする時期に来ているのではないでしょうか。
超高齢社会に向けて、最近の医療政策は完全に後期高齢者対策にシフトしちゃってますが、現実に社会を支えているのはもう少し若い世代ですから、そういう層が働き続けられるような医療政策に財源が少しでも振り分けられるようになって欲しい。次回、2018年度の診療報酬改定では、そういう視点も入ってくることに期待したいです。
1件目/24件(2017年の目標)