去る2017年8月20日に(株)不二越が本社を富山から東京に移転した。
これに関しては、不二越の会長が記者会見で
・富山で生まれ育った人は極力採らない
・富山で生まれて地方の大学に行った人でも極力採らない
・(富山県民は)閉鎖された考え方が非常に強い
と、上場企業の会長としてあまりにもアレな発言をして違う方面で話題になっていました。
燃え盛って一週間ほどしてから「分け隔てなく、人物本位で採用しております」と言い訳をしてみたり、20日も経ってから「不適切で不用意な発言があり(中略)深くおわび申し上げます」と謝罪してみたりと、対応に「チッうっせーよ!反省してま~す」感が滲みでている印象。
まあでも気持ちはわかりますけどね。
富山県民が閉鎖的かどうかはいったん置いておいても、全国展開や世界展開しようとすると、従業員の地縁関係が組織管理上の課題となることは地方では避けられないと思います。
地縁と採用の関係の深さ
大学進学等で東京なり大阪なり他の都道府県に行った人間がUターン就職しようとすると、その地域の有力企業が第一の候補になる。そういう人間は「地元に帰る」ことのプライオリティが高い場合が多いため、採用後に業務都合で「東京に行ってくれ」「中国に行ってくれ」となると、まあ嫌がりますよね。純粋にその企業の業務内容だけに魅力を感じて採用されたわけではなく、地縁というものが企業選びにプラスされているので、人事管理上の難しさがある。
私自身も採用活動をやっていて、10分、15分とかの差でも「家から近い」というのがこんなに決定的に「効いてくる」のかと感じることが多いです。面接で「志望動機を教えてください」と聞いても
「家から近いからです!!!」
と力いっぱい答えてくる人は多い。いや、コンビニのバイトを募集してるんじゃないんだから、そこは嘘でもいいからそれらしいこと答えてくださいよ、、、と思ってしまう。
地方では「住まい」は固定されているのが前提
自分がUターンする前の状況を振り返ってみると、大学時代はキャンパスが変わるタイミングで引越しをしたし、公務員時代は毎年のように引越しを伴う転勤をしていたので、「住まいは仕事に合わせて変わるもの」というイメージを持っていたように思う。
でも、富山に帰ってきてみると、実家があったり(親は自分の都合で動かせない)、マイホームがあったり(富山県は持ち家率約80%)と、「住まいは固定されているのが前提」という人の方が多い。例えば富山⇔石川を車で1時間以上かけて毎日通勤している人も少なくない。
まあ、富山⇔石川ぐらいなら「頼むこっちゃ~」と拝み倒して通勤してもらうことは無理ではないかもしれないが、これが東南アジアならそんなこと不可能なわけで、不二越が「富山のいち製造業」から脱却するにはもっとフットワークが軽い人材に切り替えていかないといけなかったんだろうと思う。それがニュースリリースにあったところの
富山だけではなく、東京、大阪、名古屋など国内各地、さらにはアメリカ、ヨーロッパ、中国、アセアンなど海外での事業展開を加速するため、それぞれのエリアにおいて、多様な機能に適した人材を配してまいります。(強調は筆者による)
というくだりの含意と感じました。
地縁以外で人材を確保する努力が必要
富山県民としては本社移転で税収減る上にdisられて、完全に後ろ足で砂かけられた格好ですが、発言の趣旨は本質的な問いかけではないかと思います。
先日、学生の首都圏流出抑制のために「23区内の定員増は不可」とする方針を政府が打ち出しました。富山県でも「看護学生の県外流出阻止」のため、2019年春の開校に向けて県立の看護大学の設立の準備をしています。
まあ気持ちはわかるんですがね。。。
不二越の会長じゃないですが、生まれてから一度も生まれた土地から出たことがない純粋培養〇〇県民を増やせば、確かに足元の”ワーカー”の需要は満たせるかもしれません。でも本当にそんなんでいいんでしょうか?それで富山の企業は本当に強くなるの?
まあ行政的にはそうする以外の政策ツールがないからしょうがないんでしょうが、本当は、行政が変な規制をするんじゃなくて、地縁以外の「事業の魅力」で外から人を引き付けられるような努力をそれぞれの企業がしていくことが重要ではないかと思います。