公的病院の再編統合は単なる”金勘定の問題”ではないよという話

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昨秋の話になるが、厚労省が開催している「地域医療構想に関するワーキンググループ」の第24回目で、病院のあり方について「具体的方針の再検証を要請」すべき医療機関が公表された。全国で424の公的病院が指名され、地方紙を中心に一部メディアが大騒ぎになった(その後、データが精査され、最終的には440病院となっている)。

 

厚労省が個別医療機関を名指しするに至るまでには長年の議論の積み重ねがあり、病院業界にいる人間にとっては(公的・民間を問わず)病院のダウンサイジングや再編の必要があるというのは概ね業界のコンセンサスになっていた。また、この検証の動き自体も、かなり前から同WGで議論されており、「やっと公表されたな」という印象だった。

 

ただ、WGの資料がここまでマスコミに注目されてしまったのは厚労省的にも予想外だったようだ。公表の翌日(27日)に医政局名で 地域医療構想の実現に向けてと題して以下のフォローの声明を追加で発表するなど、厚労省の動揺が窺える(強調は筆者による)。

今回の取組は、一定の条件を設定して急性期機能等に関する医療機能について分析し、各医療機関が担う急性期機能やそのために必要な病床数等に ついて再検証をお願いするものです。したがって、必ずしも医療機関そのものの統廃合を決めるものではありません。また、病院が将来担うべき役割や、それに必要なダウンサイジング・機能分化等の方向性を機械的に決めるものでもありません。 

今回の分析だけでは判断しえない診療領域や地域の実情に関する知見も補いながら、地域医療構想調整会議の議論を活性化し議論を尽くして頂き、2025 年のあるべき姿に向けて必要な医療機能の見直しを行っていただきたいと考えています。その際、ダウンサイジングや機能連携・分化を含む再編統合も視野に議論を進めて頂きたいと考えています。

 

公表から半年たった先日も「命と金のどっちが大切なのか」的な報道が断続的にあり、医療行政と住民との間のコミュニケーションの断絶はなかなか根が深いなと感じている。

北海道東部にある弟子屈町。釧路管内で最も北に位置する町です。住民7100人の暮らしを支えているのが摩周厚生病院です。

内科、小児科、外科、24時間の救急医療。外来と入院あわせて1日190人ほどが利用しています。

しかし今回、診療実績が乏しいとして厚労省の実名リストに記載されたのです。

医療機関が集まる釧路市までは約70キロ。車で1時間半ほどかかります。交通の便が悪い地方で、特に高齢者にとって地元に24時間対応可能な救急医療を備えた総合病院があるのは頼みの綱です。

 【病院が消える日】透析できるのは70キロ先に…「あなたの命 誰が守るのか」“病院再編“ 地域医療の行方

headlines.yahoo.co.jp

医療を「金勘定の話」に矮小化しているのはどちらか

この番組では、病院再編のメリデメを以下のように整理していた。

メリット:医療費の削減(公立病院は年間約8000億円の税金投入中)
     設備・医師・看護師などの集約で効率化

デメリット:患者の移動・負担の増加
      住民の命を守る態勢を維持できるのか

この整理、必ずしも間違っているわけではないものの、税金で赤字補填すれば病院は維持できるという前提が今揺らいできていることに注意が必要だと思われる。

 

番組で取り上げられた摩周厚生病院の立地する弟子屈町は今後30年間の間に生産年齢人口が6割減少する地区。労働力が地域全体からどんどん減っていくのに、そもそも適切な医療を提供できる体制を維持できるのか、ということにも目を向ける必要がある。

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公表されている2018年度の病床機能報告のデータによれば、摩周厚生病院の医師は常勤医師が3名、非常勤医師は0名。医師3人で「24時間の救急医療」を切れ目なく維持するというのも実際には無理がある話だが、仮に出来ていたとしても、3人のうち1人でも欠ければそもそも通常の診療も維持できなくなるはずだ。

 

また、番組でも、

摩周厚生病院が認可されているベッド数は99床ですが、医師や看護師の数が少なく、現状では60床前後で稼働せざるを得ません。

と指摘されているように、既にスタッフ不足で診療に影響が出ている。このまま地域人口が減ってさらにスタッフ確保が難しくなれば、救急医療どころか病棟を24時間365日動かし続けることもできなくなる

 

「設備・医師・看護師などの集約で効率化」と書くと経営効率だけの問題、単に補助金を入れればいいのではとみられがちだが、人口が減って患者もスタッフも減っていけば診療もできなくなる。行政が金を出さないから~というのは、逆の意味で医療を金勘定の話に矮小化していることになる。

 

正しいフレーミングで公的病院の再編統合問題を捉えなおす

公的病院の病院の再編・統合となれば、民間企業のM&Aように簡単に話は進まない。5年~10年は当たり前にかかる。厚労省が今のタイミングで具体的な要請をしているのも、問題が顕在化していない今の時点から検討を始めないと手遅れになる可能性があるからだ。

 

診療を維持できなくなってから再編の必要性を検討しても、先に経営体力が尽きて病院が"突然死"することになりかねない。まだいろいろな手を打つ時間的・経営的な余力があるうちに、他病院との合併や診療所又は介護系施設への転換等、本当に必要な機能をどう維持するのか、現実的な選択肢を考えておく必要がある。

 

この問題、①病院は総量が過剰、②公的病院は税制面・財政面で優遇⇆国家財政的には重い負担、③急性期医療の充実には資本も人材も必要で、質の維持には症例の集約が必要という、これまで積み重ねられた議論の前提が共有されてないと「オラが町の病院がなくなったら困る」みたいな単純な感情論になってしまいがちだ。

 

「"地域に必要な病院"だから残すべき」という捉え方は事業環境を取り違えている。"地域に必要な病院"であるならなおの事、その機能を再編や統合も視野に"どう維持するか"を考える時期に来ている。